Dream Japan

vol.14:
"The Blues for Champions"
   - Chelsea gets the first Champions League title!

"勝者たちのブルーズ" - チェルシー、初のチャンピオンズリーグ制覇!

(2012/5/22)

2011-12シーズンの欧州最強クラブを決めるUEFAチャンピオンズ・リーグ決勝の勝者は、クラブ創設以来、悲願の初優勝を遂げたチェルシーFCであった。

2012年5月19日にバイエルン・ミュンヘンの本拠地フースバル・アレーナの舞台にたったのは、レアル・マドリーを倒した地元バイエルンと、昨季の王者バルセロナを倒したチェルシーであった。

"The Blues"と呼ばれるチェルシー自身にとって、また、ロンドンに本拠をおくクラブとしても初の戴冠となった他、イングランド勢のクラブとしては12回目の優勝で、イタリア勢に並び、最多のスペイン勢の13回に次ぐ。

バイエルンは5度目の優勝をほぼ手中にしていただけに、悔やまれる1戦となったばかりか、09-10シーズンの準優勝、またドイツ代表も先の06年のEURO、オーストリア・スイス大会で準優勝となっており、シュバインシュタイガー、ラームら主力はまたも優勝を目前に涙を流すこととなった。

チェルシーFCは1905年にミアーズ兄弟により創設された107年目を迎える第一次世界大戦前から存在する古豪クラブであるが、ロンドンでは最も人気の高いアーセナルや、同じくノースロンドンの雄トッテナムらの後塵を拝してきたがロシアの石油王ロマン・アブラモビッチ氏がオーナーになった2003年7月から、約10年計画で悲願の欧州制覇を遂げたことになった。

ユナイテッド、シティといったマンチェスター勢、リバプール、エバートンらマージーサイドの北部勢に比べてロンドンには、プレミアリーグだけでフラム、QPRを入れて実に5チームもが属している。2部以下でもウェストハム、チャールトン、クリスタル・パレス、ワトフォード、ミルウォール、ブレントフォードら以前はプレミアに属していた古豪クラブも大量にひしめいている。野球でも首都に2チーム程度しかないものであるが、このロンドンのクラブ数の多さは異例である。

その分散の結果が、ロンドン勢の欧州初制覇を遅らせた要因にもなっているが、それだけ"本場"ロンドンにおける細分化されたフットボール熱が熱いといえるだろう。

チェルシーが真の意味で名門クラブへの階段を駆け上ったのはジョゼ・モウリーニョの獲得からであろう。フーリット、デサイー、デシャン、ヴィアリ、ハッセルバインク、ゾラ、B.ラウドルップ、カジラギ、フロー、ダフ、グリュンケア、ギャラスら世界の人気選手をかき集めて上位進出を試みていたが無冠のシーズンが続いた中で、2004年にはラニエリ監督の元でCLベスト4にまで駒を進めた。しかし、ドイツのゲリゼンキルフェンのアレナ・アウフシャルケの決勝の地に進んだクラブは、FCポルトとASモナコであった。

まだバルセロナが現在のような最強クラブではなく、レアル・マドリーが"ガラクティコス"(銀河系集団)と呼ばれていた頃、ポルトはモウリーニョ監督の元で、マンU、リヨンらを倒し、モナコはデシャン監督の元、優勝候補筆頭だったレアルマドリーとチェルシーらを倒し決勝に進んだ。

チェルシーのオーナーであるアブラモビッチは決勝で勝った方の監督にオファーを出すと言われていた中で、モナコは大会得点王となったモリエンテスと共にチームを牽引したジュリーが前半早々に負傷退場してしまい、幸運を手繰り寄せたポルトが司令塔のデコや鉄壁のCBカルバーリョらを中心にカウンター戦術で勝利を収めた。

その後モウリーニョはチェルシーの監督就任早々に50年ぶりのリーグ優勝をもらせて、リーグカップとの二冠を達成。翌年もリーグ連覇し、3年目はFAカップとリーグカップのカップ・ダブルを達成した。

しかし欧州制覇には手が届かず、2007年9月に契約解除となってから、グラント監督が2008年にマンUとのプレミア勢対決となったモスクワの地でこれを決めれば優勝という1-1でのPK戦の中でキャプテンのテリーがPKキックの途中でスリップし、アネルカもGKファンデルサールにPKを止められて目前で優勝を逃してしまった。

GKチェフ(レンヌ)や、ドログバ(マルセイユ)、マルーダ(リヨン)、エッシェン(リヨン)というリーグアンの歴代MVPたち、マケレレ(レアルマドリ-)、カルバーリョ(ポルト)、バラック(バイエルン)、ベレッチ(バルセロナ)、アネルカ(PSG)、アシュリー・コール(アーセナル)、といった選手を引き抜き、テリーとランパードというイングランドの中軸も擁していただけに、このチームこそがチェルシーの最強チームと見るむきもあったが、PKで涙をのんだ。

それから実に4年の月日がたち、圧倒的な強さをみせた時代からエースFWのドログバは34歳になり、フェルナンド・トーレス(スペイン代表)という白人の若いFWにレギュラーを奪われて臨んだシーズン開幕となり、アネルカも上海申花に舞台を変え、モウリーニョももはや姿がなくなっていたばかりか、新進気鋭のアンドレ・ビラス・ボアス(A.B.B.)監督も途中解任され、チェルシーの選手として古くから歴史を知るディマッティオ暫定監督で望んだのが今回の決勝であった。

結果的にはFAカップでリバプールを倒し、チャンピオンズリーグは悲願の初制覇となった訳だが、トーレス、マタらスペイン勢を軸に据えようとしたA.B.B.の試みがイマイチ機能しなかった中でドログバが決勝では、1-1の同点となる後半43分のヘッドと、PKでの決勝ゴールを決めて獅子奮迅の活躍をして掴んだ勝利だった。

キャプテンテリーも出場停止中だったため、CBはブラジル期待の若手ダビド・ルイスと、シーズン途中に補強したケーヒルがつとめた。

全ての計算が成り立たない中で、バイエルンのポゼッション64%に対してチェルシーは僅か36%、総シュート数は35で同9、コーナーキックは20本と1本(その1本でドログバがゴールを決めた)という大差のデータが表されたが勝利の女神はチェルシーに微笑んだ。

バイエルンはミューラーの83分のゴール、ドログバのリベリーへのファウルによる95分のPKをロッベンがGKチェフに阻まれたこと、シュバインシュタイガーがPKを外したことなど、チャンスの数とデータで圧倒しながら、勝利を掴み損ねた。

来季は違なる展開も予想されるが、今回のファイナリストになったチェルシーやバイエルンも称えつつ、欧州の最強チームの大会の行方を見守っていきたいものである。

その前にもうひとつの大きな欧州最強を決める大会、"EURO(ユーロ)2012"が今年はウクライナ・ポーランドの地で開催される。

こちらはクラブチームではなく、国と国との名誉をかけた大会であるが、前回王者スペインと、ファイナリストであるドイツを含めたイングランド、イタリア、フランス、オランダ、ポルトガルら有力国から王者が出るのか、はたまたダークホースが登場するのか、U23中心に構成される五輪、各国が混在するワールドカップよりも全試合のレベルが拮抗していると言われる6月8日からの約1ヶ月に渡る大会を楽しみたいものである!


◆"State-of-the-Art Point":

チェルシーの悲願の初制覇はドラマティックであったし、終始圧倒したバイエルンが勝者にならないというのも何とも皮肉だが、勝利の栄冠を掴むのは1チームだけだというルールに則れば、止むを得ない結果だろう。

ディディエ・ドログバは意地を見せた。オリンピック・マルセイユでブレークし、UEFAカップ準優勝をもたらせ、モウリーニョに見込まれてチェルシーに入団したアフリカ最優秀選手に二度選出されたコートジボワール代表は、アネルカとの2トップで二度目の得点王にもなり29点をあげた10年をピークに若返りを図るチーム方針の元にトーレスとの第一FWをかけたチーム内の競争を強いられた。

ルマンでキャリアをスタートし、ギャンガンでは後にチェルシーでもコンビを組むこととなったマルーダとのコンビで旋風を巻き起こし17得点、その活躍を見込まれセンターFWに抜擢されたオリンピック・マルセイユ(O.M)では一躍スターになり、リーグ戦でも活躍し、全国区のスターとなって「O.Mは心のクラブ」と称していた。

「アーセナルに憧れていた」とも語ったが、チェルシーに移籍後は"アーセナル・キラー"として幾度もアーセナルを倒し、マンUの牙城を崩す連覇も達成した。「かつて獲得を検討していた」というベンゲル監督はさぞや苦虫をかんだことであろう。

しかし34歳になったこの屈強なFWに待っていたのが、"若返り"であった。アネルカ、ドログバ、マルーダの絶妙な連動性と、ランパードの飛び出しは他チームを圧倒し、驚異的な得点力を誇り、名将アンチェロッティ(現PSG監督)やヒディング(現アンジ監督)も評価していたのだが、欧州制覇はなかなか実現しなかった。彼らが揃って30代に突入した中で、トーレスやマタらスペイン勢を獲得し、ビラスボアス監督体制でスタートした今季のチェルシーには正直、怖さがなかった。

8月にセスク、ナスリというスターの移籍問題に揺れたアーセナルが歴史的大敗をマンUに喫していたのに10月29日のスタンフォード・ブリッジでの試合ではファンペルシーのハットトリックやウォルコット、A.サントスの絶妙なゴールで5-3でアーセナルに勝利を与えた。この試合で引き分け、もしくは敗退していたらアーセナルはその後のトッテナム戦でも勝利していなかったかも知れないし、アンリの一時的な復帰でチームのムードがあがり3位フィニッシュしたガナーズとは異なり、アネルカの移籍や、ドログバにも移籍問題が飛び出していたチームの不協和音は最高潮に達しており、アブラモビッチは自ら召集したビラスボラスの実験の結果を待たずに、途中でクラブをよく知るディマッティオによる堅実路線へと舵をきった。

トーレスがリバプールで成し遂げた実績は評価できるが、チェルシーでドログバを差し置いて第一FWとされた中で6得点と結果を出しきれず、CL決勝で先発を外れたことに不快感を示したが、結果を残せなかったフェルナンドの主張には逆に違和感すら、覚える。

ドログバはアネルカと同じ上海か、「心のクラブ」と公言し、今季CLベスト8まで進みながらFW不足で勝利を掴めなかったマルセイユなど他のクラブに移籍する可能性もあり、チェルシーでのサイクルは今回で終えるようだ。

同じくマルセイユでスターに昇りつめたリベリーやファンブイテンらもこの日の決勝の舞台に立っていたが、そのO.Mのデシャン監督はフランスのチームが今季CLで優勝することはない、と言った。

それはチェルシーもそうだが、プレミアを制したマンチェスター・シティも含め、結果的には"金満クラブ"とも揶揄される、リッチな、大量の資金力を投じることが可能なクラブが優勝しているからであり、TV放映権を比例配分するなど均一化を図るフランスのクラブには不利な状況が多いのも事実だ。

プレミアのマンC、イタリアのユーべ、スペインのレアルマドリー、オランダのアヤックス、ドイツのドルトムント、ロシアのゼニト、ポルトガルのポルトら国内で最も資金力の高いクラブのひとつが上位にいる現状は変わらない。ドルトムントを筆頭に若手を育成していたチームもあるが、リーグ上位の資金力は備えている。

唯一、ジラールに率いられてリーグアン初制覇をした南仏のモンペリエだけが別格だった。

フランス国産スターとして、PSGのネネ(ブラジル)と得点王を分け合ったレフティーの192cmの長身フランス代表FWのジルーや、アーセナルが好みそうな司令塔タイプのベランダ、ベテランWGのウタカ、左サイドBのベディモらで攻撃を組み立て、DFはヤンガ・エンビワにイウトン、ボカリ、GKジュルドランらがリーグ最小失点を誇る。リーグアンでも14位というクラブ総予算で優勝を成し遂げたのだから賞賛に値する。

ドルトムントも香川(日本)にゲッチェ(ドイツ)、レバンドフスキ(ポーランド)、フンメルス(ドイツ)、グロスクロイツ(ドイツ)らの若手をクロップ監督が巧みに扱い、連覇した点は評価できるが、7万5千人収容の巨大スタジアムは常に満員で利益を確保できる環境が整備されている。

アーセナルのベンゲルは若手中心の方針を打ち出してから今季で7年連続の無冠となったが、15季連続のCL本選出場という結果は勝ち取った。ただし、やはり緊急補強したアルテタやアンドレ・サントス、一時復帰のアンリらの中堅・ベテラン組がいなかったら結果はもっと悪かっただろう。

さらにマンCやチェルシーといった資金力が豊富なクラブにせっかく育てた有望株のナスリ、クリシー、コロ・トゥーレ、アシュリー・コールらレギュラー選手を倍近いサラリーを積まれて献上してきた事実は否めず、そこにさらに潤沢な資金を得たパリからPSGが来季は加わり、カカーやイグアインら比較的高齢でなく、かつ経験豊富で世界を代表し得る大物選手を補強のためにリストアップしているといった状況であり、欧州制覇はリーグ制覇以上に資金力が重視されるであろう。

バロンドール争いの常連であるメッシはリーグ50得点、CLも新記録の14得点と4季連続の得点王、またC.ロナウドもリーグ2季連続の40得点超えと別格の域に達っしているものの、バルサもレアルも毎年、大物を入団させて強くなってきた。

モンペリエ同様、リールという中堅クラブをアーセナルに移籍したジェルビーニョらと共に昨季のリーグアン制覇に導いたあのジダンも太鼓判を押すエディン・アザールも、トーレス、マタとのコンビを探すチェルシー、マンU、シティなどに移籍のうわさがあり、その移籍金は18億円とも言われる香川の倍以上の実に40億円とも言われている。(*5月29日にチェルシー移籍決定)

"補強"はルールに則れば当然、間違った戦略ではないが、「フィナンシャル・フェアプレー」の導入がいよいよはじまり、赤字になってまで大金を投じることには制限を設けていく傾向にある。

また、残念ながらモンペリエの優勝は続かないだろうし、ジルーやベランダ、エンビアら主力を食い止めることができるか、という課題にも直面する。

しかしながら、フットボールは欧州を魅了し、マンU移籍が噂される香川や、アーセナルでシーズンを過ごせるかまた修行のためローンに出されるかといった19歳の宮市らの成長を見るのは実に頼もしく、魅力的でもある。

EUROやオリンピックらも控える2012年であるが、サッカー界におけるアスリートたちの活躍も目がはなせず、楽しみにしたいものである。

"The Blues"(チェルシーの愛称)への*ブルーズや、各国のチャンピオンたちへの賞賛のチャントが鳴り止まぬ中、ポーランドにて6月8日からEUROが、また、ロンドンには世界のアスリート達が集い、7月27日からは、いよいよ4年に一度のオリンピックがはじまろうとしている...。


*音楽のBluesは、本来の発音ではブルーズ[blú:z]であり、bluezと綴られる事もあることからここではチェルシーの愛称と合わせ、ブルーズと表記しています。